目路はるか教室
去る令和元年11月8日、私の母校・慶應義塾普通部の授業「目路はるか教室」を当院で開催しました。
「町田市医師会報」に投稿した文章を転記します。
私の母校(中学校)に「目路はるか教室」という特別授業があります。「希望は高し 目路ははるけし」という校歌の一節から名付けられたこの授業は、生徒が小グループに分かれ、それぞれOBの職場を訪れて授業を受けるというものです。学外で行う点は異なりますが、数年前までNHKで放送されていた「ようこそ先輩」のようなイメージでしょうか。私の在学中にはまだ始まっていなかったこの授業も今年で22回目を迎え、今や名物カリキュラムのひとつになっています。
毎年様々な分野で活躍する約30名のOB講師が選ばれ、それぞれのメッセージを後輩達に伝えます。その顔ぶれは会社経営者、技術者、弁護士、医師等々。ふとしたきっかけで私も恩師から声を掛けていただき、今年度の講師を務めることになりました。学校側から事前に伝えられていたことは「生徒に生き様を伝えて欲しい」ということだけです。中学生に何を伝えようか悩んだ末「夢への一歩を踏み出そう!」というタイトルに短いメッセージを添えて希望者を募ったところ、幸い複数の生徒が興味を示してくれました。
選択コースが決まると、事前に各々がこのコースを選んだ理由や質問が送られてきました。質問はやはり「医師を目指したきっかけ」や「医師の仕事について」が多かったですが、中には「疲れませんか?」という面白いものもありました。そして予想通り「将来医師になりたい」という生徒がいる一方で「将来の夢はまだありません」という生徒もかなりいました。
そして先日、ちょうど建て替えが完了したばかりのクリニックに1年生22名を迎え「目路はるか教室」を開催しました。(奇しくも私は昭和最後の新入生、彼らは平成最後の新入生です)まだ初々しさの残る後輩達。キラキラと輝く彼らの目を見ながら、中学生の頃の自分を思い出していました。何となく医師を目指そうという思いはあったものの、具体的な努力は何一つしていませんでした。それでも将来を悲観することなく過ごせていたのは、良き友人達と楽しい中学校生活を送っていたからでしょうか。
もしあの頃「目路はるか教室」があって、心揺さぶられる先輩の授業を受けていたら、人生が変わっていたかもしれません。そんなことを考えながら、この日出会った生徒の中の一人でも、夢へと向かう第一歩を踏み出すきっかけを掴んでくれたら嬉しいと思っているところです。