(思っていることを書いていたら、長文になってしまいました)

世の中の話題は新型コロナウイルス一色です。私たち医療機関もその動向には毎日注意を払っています。

ただ正直なところ、多くの報道や人々の行動に首を傾げることが少なくありません。私は感染症の専門家ではないので、専門家の常識から外れることがあるかもしれませんが、いま疑問に思っていること、感じていることを記します。

いま、世界中の感染拡大地域でイベントや集会の中止、学校の休校が相次いでいます。私はこの措置自体は正しいと思います。ただその目的を明確にしなければなりません。

私が考える第一の目的は、「感染拡大を緩やかにすること」です。イベント会場等でクラスター(集団感染)が発生すると感染が急速に拡大し、医療崩壊が起きて大変な事態になります。例えば、集中豪雨は大きな災害をもたらしますが、適度な雨は恵みの雨となります。自然災害に対して人間は無力ですが、感染の急拡大という災いに対して、今は必死に対抗しているところです。

この状況下で、感染拡大を「止める」ことは不可能です。感染者は今後確実に増えるでしょう。しかしこれが緩やかに進めば、多くの人々が免疫を獲得して、いずれこの「新型」コロナウイルスもただのカゼと同じか、ワクチンによって制御できる病気になるでしょう。ですから「感染者が何人出た」とか、「感染者数が少ないのは検査をしないからだ」という話題はあまり意味を持たないと思います。私達に出来ることは、個人個人が感染の広がりを抑制することだけです。

毎年流行するインフルエンザも同じく、私は診断を「確定」することにあまり重要性を感じていません。(ただ法律上、指定感染症と認定するために確定診断が必要となることがあるのが悩ましいところです。)流行や感染者との接触状況と、その人の症状から推測し、調子が悪ければ自宅で安静にすることを勧めます。仮に診断がついたとしても、特効薬があるわけではないのですから。(抗インフルエンザ薬も特効薬ではありません。)とは言え、感染が広がらないように努めることはとても大切です。自分が感染した、あるいは体調が悪いときは、周囲にうつさないように注意が必要です。具体的には他人との接触を避ける、隔離された場所以外ではマスク着用など咳エチケットを徹底することなどです。また健康な方も、予防を習慣づけるべきです。具体的には手洗い、公共物に不必要に触れない、免疫力を下げない(しっかり休息を取る)などです。今回のことで多くの方がこれらを実践するようになったことは、とても良いことだと思います。是非一時のブームにせず、継続してもらいたいと思います。

いま、どこもマスク不足が深刻です。私は予防のためのマスクは不要と思っています。実際、普段の診療で私はマスクを着用していません。(咳が出るとき、自分で体調が悪いと感じたときは着用します。)日々多くの患者さんから(耳鼻科なので至近距離で!)多くのウイルス、細菌を浴び続けていますが、ありがたいことに20年間病気で仕事を休んだことは一度もありません。日々ワクチンを打ち続けているような状況ですから、自然と万能の免疫を身につけているのだと思います。このような私と暮らす家族もまた、滅多にカゼを引きません。話は逸れますが、よく受験生が試験の何ヶ月も前からマスクを着用して、病気にならないようにと予防している姿を見かけます。私にしてみれば、免疫力を上げる機会を逸している行為に見えてしまいます。もしかするとカゼやインフルエンザを発症するかもしれませんが、それも数日で改善し、その後はカゼを引きにくくなります。もしマスクが必要とすれば、潜伏期間を含めた試験1~2週間前に着用するくらいでしょうか。一方、花粉症の場合は花粉をブロックする意味で予防のためのマスクは重要です。正しい知識の基、適切にマスクを使用すればマスク不足は解消するのではないでしょうか。

新型コロナウイルスは私にとっても未知のウイルスです。知らないうちに感染しているかもしれません。ですがこれまでわかっている情報を見る限り、普段健康な人の場合は不顕性感染(症状が出ないキャリア)であったり、発症しても軽症で済んだりということですので、過度に恐れてはいません。もしかしたら既にこのウイルスに接していて、免疫をつけているかもしれません。勿論、発症してしまったら仕事は休みますが。

問題なのは、重症化のリスクがある高齢者や持病を持っている方が感染した場合です。人間には免疫という素晴らしい防御装置が備わっています。過去に攻撃を受けたウイルスに対しては、免疫記憶によって対抗することができます。ところが、高齢者や持病を持っている方々はその防御機能が弱くなっているので、健常者では感染しない状況下であっても発症し、場合によっては重症化します。新型コロナウイルスの恐ろしいところは、健康に見える不顕性感染者であっても、知らず知らずのうちに他人にうつしてしまう可能性があるということです。それでも健常者は過度に恐れるのではなく、高齢者等との接触をできるだけ避けることや、接する場合には細心の注意(直前の手洗いやマスクの着用)を払う必要があることを認識すべきです。

今回の「コロナ騒動」を機に、体調が悪いときや熱があるときは躊躇なく「休む」ことができる社会になることを願っています。またカゼの症状が出た時に最初にすることは、病院への「受診」ではなく、自宅での「休息」を取ることです。厚生労働省も早い段階で自宅安静が第一選択であると公表し、現に例年に比べてインフルエンザ等感染症の罹患者、受診者は減っています。感染者が自宅待機をすることで余計な感染の広がりが抑えられ、結果的に社会機能の維持に繋がると私は考えます。

稲垣耳鼻咽喉科医院