先日、厚生労働省から3月13日以降のマスク着用について、「原則個人の判断に委ねる」という発表がありました。
マスクの着用についてはそのメリット(外した時のデメリット)については多くの意見が出されており、私もその通りと思います。一方、着用のデメリット(外した時のメリット)については、表情がわかりやすいなど、心理面での効果に限定されているように感じます。
今回は、マスク着用のデメリット(外した時のメリット)について、「感染対策」の側面から私見を述べたいと思います。
感染対策にはいくつかの段階があります。
①ウイルスや細菌などの微生物にさらされる → 3密を避ける
②微生物が体につく(一過性のことも) → 手洗い、マスク
③微生物が増える(感染、無症状のことも) → ワクチン、抗体(免疫)
④微生物が増えて症状が出る(感染症) → 治療薬
マスクは第2段階の「微生物が体につく」ことを防いでくれます。しかし第3段階ではワクチン以外に抗体(免疫)を作る手段として、「微生物に触れること」が挙げられます。この「微生物に触れること」は第1、第2段階と相反することなので矛盾すると思われそうですが、私は重要なポイントだと思っています。

私達が生活する環境には無数の微生物が存在しています。コロナが流行するまで、私達は「ノーマスク」で微生物にさらされていました。そのお陰で気付かないうちにそれら微生物に対して免疫力を備えていました。この3年間マスクが当たり前の生活になったことで、様々な微生物に対して免疫が低下し、集団として感染症への抵抗力が弱くなってしまいました。

これを裏付ける出来事がいくつかあります。コロナの陰に隠れてあまり目立たなかったかもしれませんが、昨年夏、手足口病が大流行しました。例年夏に流行するのですが、過去2年間流行がなく、恐らく多くの方の免疫が弱まり、昨は大流行となりました。またインフルエンザもこの冬3年振りに流行しました。ただし、マスクや手指消毒習慣のお陰で大流行とはなっていません。注目したいのは家庭内感染率が従来の2.4倍になったという点です。通常マスクを着用しない家庭内では、この2年で抗体が失われたため、そのような結果になったものと考えます。

私は従来から、生活の中で自然に獲得する免疫力を大切に考えています。コロナ流行以前、私は原則ノーマスクで診療をしていました。毎日多くの感染症(多くはカゼ)の方と接触していましたが、医師になってから一度も病欠はありません。更に言いますと、私の家族(妻と11歳の娘)も一度も病欠がありませんでした。(娘はコロナに感染しましたが・・・)

コロナも昨年の第6波くらいまでは感染力が強く、かつ重症化率の高い危険な感染症と認識していましたので、マスク着用は絶対必要と考えていました。しかし第7波以降、当院で診断した陽性者は高齢者も含めほぼ100%軽症、統計上の重症化率も季節性インフルエンザと同等となり、「危険な感染症」ではなくなった印象です。ただ季節性インフルエンザと比較して「感染力」は非常に強いため、引き続き感染しないための注意は必要と考えます。

ワクチンは感染予防(重症化予防)として重要ですが、効果は3~5か月程度で弱まってしまいます。もし免疫を獲得する方法がワクチンだけだとすれば、絶えず接種を繰り返さなければなりません。ワクチンの効果については、3回の接種で基礎的な免疫(6か月後に感染予防効果が期待できる値の3/4程度)が獲得できるというデータがあります。その後もウイルス暴露がなければいずれ免疫は失われてしまいますが、基礎的な免疫を獲得した後であれば少量のウイルス暴露を繰り返すことによって発症せずに免疫を維持することが可能です。

そこで現時点で私が考えるベストな感染対策は、

ワクチンを3回以上接種し、濃厚接触にならない場面ではマスクを外すこと

不特定多数の人が集まる「3密」の場所に長時間滞在する場合(通勤電車や病院の待合室など)はリスクが高いのでマスク着用を勧めますが、それ以外の場所ではむしろマスクを外すことで少量の微生物を浴び、免疫を保つメリットがあると考えます。海外でノーマスクの生活に戻っても混乱が起きていないのは、このようにして集団免疫を維持できているためだと考えます。

但し、高齢者や免疫力が低下している方(またはそれらの方と接する方)、体調が悪い方がマスクを外す場合は注意が必要です。通常よりも慎重になるべきですし、特に高齢者はワクチンの定期的な接種も考える必要があります。それでも屋外でのマスク着用は不要だと思っています。

皆さんが情報をきちんと整理して、ご自身でマスク着脱の判断ができるように、そして結果として集団免疫を獲得して平穏な「ウィズコロナ」の生活が訪れることを願っています。

 

稲垣耳鼻咽喉科医院