久し振りの投稿になります。

3月からマスクの着用が個人の判断に委ねられるようになり、5月8日以降は新型コロナ感染症もインフルエンザと同等の5類感染症となりました。5月中も真夏日になる地点が出るなど気温が上昇し、街中では「ノーマスク」の方が少しずつ増えてきました。

2月のブログでは条件付きでマスクを外すことを推奨しましたが、現在も私の考えは基本的に変わっていません。私自身、最近は診療中以外は公共交通機関を利用する時を含めてほぼ「ノーマスク」で生活しています。海外では早くから「ノーマスク」生活が当たり前になっている一方、日本ではまだまだマスク姿の方が多数派のようです。4月以降、学校健診で町田市内の学校を訪問する機会が数回あり、学校でのマスク着用の状況を伺ったところ、「個人の判断に委ねる」と指導されているものの、室内では8割以上の生徒さんがマスクを着用しています。私の感覚では「異常」なのですが、生徒さんたちにとってマスク着用は当たり前で、苦痛も感じていないようでした。

この3年間のコロナに関する統計を調べてみると、世界ではコロナ関連死者数が1500万人であったのに対し、日本は6万人と死亡率は低く抑えられました。オミクロン株になってからは重症化率も低下し、インフルエンザと同等かむしろ低くなってきています。過去にコロナに感染した人の指標となるN抗体の保有率は全国平均で42.3%(3月時点)、イギリスの90%と比較すると低いですが、だいぶ上昇してきました。このN抗体はコロナウイルス本体の情報を持っているため、表面の構造が異なる変異株が出現したとしても効力があり、数年間維持されます。一方ワクチン接種で得られるS抗体はコロナウイルス表面の情報であるため、変異株に弱く、また数か月で効果が弱まります。よって国民全体にN抗体が定着することが「集団免疫」の鍵になります。

最近のコロナは感染しても普通のカゼやインフルエンザと同じような経過をたどり、数日から1週間程度で自然に回復する方が殆どです。ある程度の感染拡大を許容しながら、重症化リスクがある高齢者や持病をお持ちの方のみ予防接種を継続する政府の方針は妥当と考えます。とはいえ、インフルエンザと全く同じと言い切れないのが「後遺症」の問題です。

コロナの後遺症は重症度とはあまり関係がないようです。当院にも嗅覚・味覚障害や倦怠感、ブレインフォグなどの後遺症に悩む幅広い年齢層の方が通院されています。後遺症を減らすことができるのではないかと言われているのが、軽症者を対象に処方が認められた新しい内服薬「ゾコーバ」です。この薬は感染者の体内でウイルスの増殖を抑制し、発熱やのどの痛み、咳、倦怠感等の自覚症状を短縮する効果があります。ちょうどインフルエンザで処方される「タミフル」や「ゾフルーザ」などと同じような効果です。対象者は12歳以上70歳未満で、妊婦さんには使用できません。発症3日以内の内服開始で効果が期待できるので、多くの陽性者に処方したいところですが、問題はその薬価です。1回の処方で5万円程度と高額のため、安易に処方できるものではありません。それでも9月まで薬剤費が公費で負担されることが決まっているので、症状の重い方を中心に処方し、効果について検証することも大切と考えます。いずれは薬価も下がり、処方しやすい薬になることを期待しています。

稲垣耳鼻咽喉科医院