コロナ第7波が高止まりとなっています。

医療現場が逼迫する中、多くの方が抗原検査キットや民間PCR検査で受診前に陽性判定をされるようになってきました。

抗原検査もPCR検査も、コロナ感染の有無を判定するという目的は同じです。

しかし色々な方のお話を聞く中で、「PCR信仰」のようなものが伺えるので、私見を述べさせていただきます。

結論から申し上げると、診断には「抗原定性検査で十分」という考え方です。

抗原定性検査の最大のメリットは、簡便・迅速、しかも安価に判定ができる点です。

しかも検査キットがあれば自宅でも検査可能です。

デメリットとしては「偽陰性」(本来陽性の方が陰性と判定されること)が多く含まれる点でしょうか。

「偽陰性」の最大の原因は「検体の取り方」にあると思います。

当院でも最近、咽頭痛があって自己検査「陰性」で受診された方に再検査を行った結果「陽性」となるケースが増えています。

自己検査では「鼻腔」または「唾液」による検体採取が主流です。

私の印象では特に「唾液」の検出率が低く、「唾液陰性」の方が再検査で「陽性」となるケースが多いです。

よってこれから検査キットを購入される方には、「唾液採取」のキットはお勧めしません。

当院では最もウイルスが溜まりやすい「鼻咽頭」(鼻とのどの境界部分)から検体を採取しています。

「鼻咽頭」から検体採取した抗原定性検査の結果は、感度が良いとされるPCR検査とほぼ同等という印象です。

(正確に統計を取った訳ではありませんので、あくまで経験上の印象です)

ですから自己検査の結果が陰性であっても、発熱や咽頭痛等の症状がある場合は医療機関を受診するようにしてください。

ではPCR検査のメリットは何でしょうか?

私がPCR検査を「利用したい」と思う場面は、症状からコロナ感染を疑うものの、抗原定性検査陰性だった場合です。

但し、このようなケースは年間で数例程度ですので、実際にはPCR検査が無かったとしても殆ど困ることはありませんし、結果的に検査結果が覆ることも殆どありません。。

むしろPCR検査の「感度の良さ」が裏目に出るケースを時々目にします。

実際に身内で起きたケースでは、海外で陽性(無症状)となり、2週間の療養期間を経て日本へ帰国した際に空港のPCR検査で陽性判定となったため、1週間のホテル療養を強いられたことがありました。国内であれば無症状陽性の場合、7日間の自宅待機後に検査なしで隔離を解除されます。それは7日間の経過中にウイルス量が減少し、他者への感染のリスクが数%以下になることが示されているからです。しかしPCR検査は感度が高く、このような状況であっても「陽性」と判定されることがあります。(罹患後1か月程度陽性が続く場合もあるようです。現在は一部の国と地域を除き、帰国時のPCR検査は不要となっています。)

また先日は隔離期間を終えた方が自主的にPCR検査を行った結果、陽性判定となったために相談を受けました。その時点では無症状であり、本来は検査不要の状況ですので、特に追加隔離は不要とお伝えしました。

PCR検査は感染症の経過、特に体内ウイルス量の変化を定量的に調べる目的で利用するには有用ですが、抗原定性検査と比較して判定に時間がかかること、費用が高価であることから、臨床の現場には不向きと考えています。

稲垣耳鼻咽喉科医院