前回に引き続き、現場での実感を踏まえて今思うことをお伝えしようと思います。

<感染者の経過について>

現在流行している「オミクロン株」は報道にもあるように軽症者がほとんどです。22日現在当院でフォローしている自宅療養者は29名(10歳未満3名、10代2名、20代14名、30代5名、40代0名、50代3名、60代1名、70代1名)で、全ての方が2~3日以内に平熱になり、咽頭痛、咳、頭痛、倦怠感といった症状がもう少しだけ続くといった状況です。70代の方は症状自体は軽症でしたが、高血圧、糖尿病といった持病をお持ちのため、年末に承認されたばかりの内服薬を処方して自宅療養としました。当初入院を選択しても良いと考えましたが、自宅療養者の健康観察アプリ「MY HER-SYS(マイハーシス)」を利用して毎日の健康状態をオンラインでチェックし、幸い経過は良好です。ほとんどの方がこのアプリ入力に協力してくださっているおかげで、時々気になる症状がある方にお電話する程度で比較的安心してフォローできています。療養期間終了前には必ず電話で様子を伺い、状態を確認したうえで隔離解除の指示を出すようにしています。第5波までは全ての感染者の健康観察を保健所が担う仕組みになっていましたが、今回は私たち開業医も健康観察を分担していますので、感染者が相当数になっても対応は可能ですし、出来るだけ保健所や病院に負担をかけないように現場で出来ることをやることが私たちの責務だと思っています。保健所や病院にお願いしたいことは、私たちがフォローしている中で重症化あるいはその傾向がみられる方について、迅速に入院対応していただける体制を整えておいていただくことです。

<検査体制について>

検査は本来診断のために用いられますが、多くの方が不安を抱えている今、その不安を解消するためにも必要になってきています。希望する方全てに検査が行き渡るのが理想ですが、現段階では難しいようです。感染者急増で検査の需要が高まり、PCR検査を行う検査会社もパンク寸前。本来遅くとも翌日には結果が出るところ、3日後に結果が届くなど、診療業務に支障が出ている医療機関もあるようです。また薬局等にも配布されている抗原検査キットも不足しています。当院でも「抗原定性検査キット」を用いて診断をしていますが、在庫が少なくなってきました。注文しても品薄状態で、次いつ届かわからなくなっています。先日、微熱があり自宅で検査をし、陰性だった方が当院を訪れ、再検査で陽性が判明しました。同じ検査キットを使っても、検体の取り方で精度は大きく違ってきます。当院は耳鼻咽喉科ですので、最もウイルス量が多い鼻咽頭(鼻とのどの境界部分)からしっかりと検体を採取します。最近は陽性率が高く、21日は100%(11/11)でした。最初に述べたように希望者全員に検査できるのが理想ですが、検査キットが不足している今、できれば検査精度の高い医療機関に優先的に配布していただきたいと思っています。またPCR検査も本来の機能が取り戻せるまで、無症状者の検査はお控えいただけるとありがたいです。

<隔離期間の設定について>

感染者の隔離期間は、発症日または無症状の場合は診断日の翌日から10日間となっています。また濃厚接触者については最終接触日の翌日から10日間です。医療従事者やエッセンシャルワーカーについては緩和措置が取られるようになりましたが、本当にこれが適切なのか、検証が必要です。感染者の経過でお示ししたように、症状は数日で改善し、残りの隔離期間は退屈している方も多いのではないでしょうか。オミクロン株は潜伏期間が短いということは公表されています。一方で感染後いつまで、どの程度感染力を持つのか、恐らく感染症の専門家はその具体的なデータをお持ちのはずですが、公表はされていません。10日間の設定は他者への感染が1%以下になる期間と聞きました。重症化リスクの高い感染症であればその対応も必要ですが、果たして今の状況に即していると言えるでしょうか。例えば学校保健法のインフルエンザ出席停止期間と同じく、発症後5日間かつ解熱後2日間に設定した場合に他者への感染が80-90%抑制されるのであれば、私は隔離期間として十分と考えます。勿論その場合は療隔離間終了後も感染防止策を継続することが望ましいです。専門家の皆さんには是非感染後のデータを明らかにしていただき、政治家の皆さんにはデータを踏まえた政治的判断をお願いしたいと思います。

<人流抑制か人数制限か、with コロナに舵を切るタイミング>

政府分科会・尾身会長の発言がクローズアップされています。私の意見としてもほぼ全国民が外出時にマスクを着用している状況下において人流抑制はあまり意味がなく、人数制限も感染リスクの高い飲食の場だけで十分と考えます。飲食店の時短営業についても、これまで示されていたような人数制限や飛沫防止策、換気の徹底など対策を講じていれば必要ないのではないでしょうか。(利用者の自粛により売り上げが落ち込んだ店舗への手当ては必要ですが)

そもそも私たちが日々の生活に犠牲を払って感染対策を行う意義とは何でしょうか。大原則は死亡者を出さないためであり、そのために重症者を少なくすること、また重症化に繋がる医療逼迫を防止すること、医療逼迫を起こすような感染爆発を防止することです。日々の報道を見ていると、感染者を増やさないことが一番重要なように錯覚してしまいます。ワクチンや内服薬の登場で重症化リスクが抑制され、ウイルスそのものが弱毒化し、開業医を含めた自宅療養者フォローアップ体制が構築されてきた現状において、ある程度(例えば1日10万人程度)の感染拡大は許容できると考えます。今、多くの国民が「感染したくない」と思っている要因は、「病気で死にたくない」から「10日間隔離になると困る」に切り替わっているように思います。重症化が少ない子ども達についても、大切な思い出になる学校行事など、一日も早く日常(に近い状況)を取り戻してしてあげたいと思います。重症化リスクの高い高齢者、持病をお持ちの方、ワクチン未接種の方々への配慮は必要ですが、当初の「殺人感染症」のイメージから大きく変わってきた新型コロナへの対策も、そろそろ大胆に「with コロナ」へ舵を切る時期に来ているのではないでしょうか。

 

稲垣耳鼻咽喉科医院