・咽喉頭(いんこうとう)異常感

「のどに何か引っかかる感じがする。」「何か詰まっているような気がする。」そんな症状はありませんか?

 

のどに異常を感じる原因は様々です。風邪でのどが痛くなる場合や、魚の骨が刺さった場合などは 原因は明らかです。しかし息苦しさや痛みもなく、自分では原因がわからずに、違和感だけがあるケースも数多くあります。そのような場合のどを観察すると、形態的な異常がある場合と、ない場合があります。

 

形態的な異常がある場合、のどに腫瘍(良性・悪性)ができていたり、のどの粘膜に炎症があったりすることがありますが、実はこのようなケースは極少数です。

 

より多くの方(のどに違和感を感じる方の95%以上)は、形態的な異常を認めない、いわゆる「咽喉頭異常感症」です。咽喉頭異常感症の原因を明示すことは困難ですが、胃酸の逆流(逆流性食道炎)が原因である方が2~3割くらいいると言われています。また隠れた慢性上咽頭炎が原因である場合もあります。

 

のどの観察は、経鼻内視鏡検査が最も有用です。鼻の穴から細長い内視鏡を挿入し、のど(食道の入り口まで)をよく観察します。形態的な異常があれば、小さな病変でも発見することが可能です。

 

この検査で異常が見られない場合は、咽喉頭異常感症と診断します。「がんが心配」という理由で受診される方も多いですが、この検査で異常が見られなければ、少なくとものどのレベルで「がん」はないと思っていただいて結構です。検査費用は保険3割負担で1,800円になります。

 

まず明らかな原因があれば原因を取り除く治療をしますが、咽喉頭異常感に対しては確実な治療方法はありません。逆流性食道炎を疑う場合、胃酸を抑える薬(PPI:プロトンポンプインヒビター)が有効な場合があります。その他慢性上咽頭炎が疑われる場合には、上咽頭擦過療法(EATイート)という治療や、特に治療をせずに様子を見て頂くこともあります。症状の強い方(気になって仕事が手につかない、夜眠れない等)に対しては、安定剤を処方することもあります。いずれにしても様子を見ていて体へ悪影響を与えるものではありません。検査の結果異常がないことがわかると、それだけで症状が和らぐ方もいます。

 

 

・慢性上咽頭炎

上咽頭は鼻腔の一番奥、鼻とのどの境目にあたる部分です。上咽頭はウイルスや細菌の侵入を最初にキャッチする場所であり、風邪で最初に攻撃されるのが上咽頭ということになります。上咽頭には免疫システムがあり、免疫がしっかりしていれば風邪はすぐに治ります。ところが寝不足や体調不良で免疫力が低下した状態ですと、風邪は長引いて慢性化することがあります。

慢性上咽頭炎になると、様々な自覚症状が現れます。後鼻漏、咳、咽頭痛、咽頭違和感、頭痛、肩こり、全身疲労感、めまい、などです。理由は上咽頭が免疫機能の他、舌咽神経や迷走神経(自律神経)といった重要な神経や、リンパ管の密集地帯であるからです。

慢性上咽頭炎は上咽頭を内視鏡で観察しながら、綿棒で擦ることによって診断が可能です。難しいのは、見た目だけでは正常と区別がつきにくいこと。他の病院で「異常なし」と言われた方でも実際に上咽頭を擦ってみると、出血や粘液の分泌が多量に認められるケースは多々あります。

 

治療は、上咽頭に1%塩化亜鉛を染みこませた綿棒を擦りつける「上咽頭擦過療法」(Epipharyngeal Abrasive Therapy=EAT【イート】)という処置を、概ね週1回のペースで続けて行います。最初は強い痛みや出血を伴うことが多いのですが、早い方だと数回、多くの方が10回程度の治療で症状の改善を自覚されます。治療を続けるうちに、痛みや出血は少なくなってきます。

「つらい不調が続いたら 慢性上咽頭炎を治しなさい」(堀田修著 あさ出版)という本が出版されています。長引く後鼻漏、咳、咽頭痛、咽頭違和感、頭痛、肩こり、全身疲労感、めまいでお悩みの方は、ぜひご一読の上、治療を受けられることをおすすめします。

稲垣耳鼻咽喉科医院