耳鳴症

「布団に入るとキーンという音が気になる」、「一日中セミが鳴いているよう」、そんな症状が耳鳴りです。周りの人には理解できない症状でもあり、本人にとっては余計に辛いものです。

 

耳鳴りの多くは内耳(音と平衡感覚のセンサー)の障害によるものと言われていて、難聴を伴っている場合が多いです。内耳が障害される原因はストレス、加齢、血流障害などさまざまですが、障害を受けた内耳細胞から電気信号が生じ、その信号を神経が受信して脳の聴覚野に送ります。すると、あたかも音が鳴っているかのように脳が感じてしまうのです。

 

耳鳴りは本人にしかわかりませんが、聴力検査によって内耳のどの部分が、どの程度障害されているか調べることができます。障害の部位によって、治療法が異なる場合があります。

 

耳鳴りの治療は、まず耳鳴りを理解することから始まります。患者さんの多くは、耳鳴りそのものの煩わしさと同時に「何か悪い病気のサインではないか」という不安を抱えています。実際、例えば脳梗塞や脳腫瘍など重大な病気があった場合、耳鳴り以外にも他の症状が現れることが多いので、「耳鳴り」だけで隠れた病気を不安に思う必要はありません。また、実は耳鳴りは誰にでも感じられる体の現象です。音のない場所、例えば静かな森の中に行ったとします。そんな時よく「シーン」という表現を使いますが、これも耳鳴りです。普段は雑音の中にいて、誰しも耳鳴りを意識していないだけなのです。耳鳴りを感じる人の多くは難聴を伴っているため、音の入力レベルが低下しています。そうすると相対的に耳鳴りが際立って聞こえてしまうのです。このような耳鳴りの本質を理解するだけでも、多くの方の苦痛が和らぎます。

とは言え、耳鳴りを感じている人は、脳の自然な働き(苦痛ネットワーク)によって不安が増長されることが少なくありません。不安の増長に伴って、不眠などの身体的影響が現れることもあります。

 

耳鳴りの素となる内耳障害の原因はさまざまです。薬の治療で良くなるものもありますが、多くの場合は根本的な治療法がないのが現状です。とすると、耳鳴りを「ピタッ」と止める方法はないことになります。ですが心配しないで下さい。治療の目標を、「耳鳴りを止める」ではなく「耳鳴りが辛くなくなる」に置き換えてみましょう。

 

耳鳴りが辛くなくなる仕組みは、実は本能的に備わっています。「脳の可塑性(かそせい)」といって、長く耳鳴りが続くと、脳が耳鳴りに対する警戒を解いてくれます。だたし、これが安定するまで1年かかると言われています。他に薬物療法によって苦痛ネットワークを抑制したり、不眠を解消したりすることも可能です。また音響療法といって、補聴器の装着や音のある環境に身を置く(寝室にラジオをつける)ことによって、相対的に際立っていた耳鳴りを抑制することも可能です。

 

辛い耳鳴りから一人でも多くの方が、一日も早く解放されるよう、お手伝いできれば幸いです。

 

ストレス性内耳障害・メニエール病

ストレスが原因で内耳に異常をきたす疾患です。具体的には内耳がむくむことにより、特に低い音が聞こえにくくなったり、耳鳴りやめまいを伴ったりします。

 

内耳にはもともと「リンパ液」という体液が入っていて、通常は一定の量に保たれています。それがストレスや寝不足、気圧の変化などによって自律神経が乱れると、リンパ液の量が増えてしまい、内耳がむくんだ状態になります。自覚症状として多いのが「水に潜った時みたいなボーッとした感じ」です。

 

同じような病態で、耳閉感、耳鳴、低音の難聴を伴うめまいを反復する場合、「メニエール病」と診断されます。

 

内耳の「むくみ」に関係する病気は、一度症状が回復しても繰り返すことがあるので注意が必要です。日頃から「ストレス」をため過ぎないように、適度な休息、気分転換をおすすめします。

稲垣耳鼻咽喉科医院