滲出性中耳炎

子どもの難聴の原因で最も多く、老人にも多い疾患です。「最近聞き返しが多い」「テレビの音が大きく、近くで観ようとする」など、難聴かな?と思ったら滲出性中耳炎かもしれません。

 

耳管は鼓膜の外と中の気圧を調整する働きがありますが、耳管の機能が何らかの原因で悪くなると、中耳の空気が周囲の粘膜から吸収され、鼓膜は徐々に奥に引き込まれて陥凹してきます。また、中耳の粘膜から出た滲出液が貯留してきます。この状態が滲出性中耳炎です。

 

滲出性中耳炎では鼓膜の振動が悪くなり、聞こえにくくなります。急性中耳炎のような痛みはありません。子供と老人は成人に比べて耳管機能が弱いため、中耳炎を起こすリスクが高いのです。子供の場合、個人差はありますが、成長とともに(概ね小学校に入る頃までに)中耳炎になりにくくなります。

 

鼓膜の所見(陥凹や液体貯留)だけでも診断は可能です。客観的な聴力の評価や重症度を判定するため、聴力検査やティンパノグラム(鼓膜の動きを測る検査)を行います。

 

治療では、まず「鼻すすり」を禁止します。その上で、耳管機能改善を目的とした鼻処置や投薬を行います。基本的に慢性的な疾患ですので、治療にはしばしば長期間(数ヶ月程度)を要します。

 

鼻処置や投薬治療を行っても難聴が改善されない場合、鼓膜を切開して中の滲出液を吸引したり、「チュービング」といってシリコン製のチューブを鼓膜に留置して、常に換気が行える環境にしたりします。(子供の場合は全身麻酔をかける必要があります)

 

 

突発性難聴

ある時突然発症した難聴のうち、内耳(耳の奥の音を感じるセンサー)に異常が生じ、かつ原因が明らかではないものを突発性難聴といいます。

 

突発性難聴の原因は不明ですが、これまでの研究から内耳循環障害とウイルス性内耳炎が最も有力な病因と考えられています。内耳循環障害、つまり内耳の血のめぐりが悪くなる原因としては血栓(血液が固まったものが栓まる)や、塞栓(動脈硬化の原因になるものが栓まる)、出血、血管攣縮(血管のけいれん)などが挙げられていますが、多くの突発性難聴は中年の比較的健康な方に生じることが多く、高齢者ほど生じやすい血栓、塞栓、出血などが原因と考えるのは無理があり、むしろストレスによって血管のけいれんが生じることが病因であろうと考えられます。また、突発性難聴になる直前に風邪をひいていた方も多いことから風邪のウイルスによって生じる内耳の炎症という説も有力ですが、これまでのところ突発性難聴の原因となるウイルスは分かっていません。

 

突然発症した感音難聴(内耳の障害)で、原因不明であれば突発性難聴と診断します。また難聴以外の症状として、耳鳴り、めまい、吐き気を伴うことがありますが、これらの症状を繰り返すことはありません。(繰り返す場合は別の疾患を疑います)

 

診断には聴力検査を行う必要があります。厳密に言うと、突発性難聴と症状が似ている病気、例えば聴神経腫瘍やメニエール病などとの鑑別は、聴性脳幹反応という脳波の検査やめまいの検査、脳のMRI検査などを行う必要がありますが、全ての症例で行う必要はないと考えます。治療で改善が思わしくない場合、必要に応じて追加の検査をお勧めします。

 

突発性難聴の発症にはストレスや疲労が関わっていることが多く、急性期の治療として安静が最も重要です。安静のみで自然治癒する可能性もありますが、難聴の程度によっては入院治療が必要になる場合もあります。内耳の血液循環を良くするATPなどの血管拡張薬や向神経ビタミン製剤(ビタミンB12)、そして副腎皮質ステロイドによる治療が基本です。ステロイド治療を約1週間行い、全体では2~3カ月の治療が必要になります。

 

突発性難聴の治療による回復は様々であり、全体の3分の1は完全治癒、3分の1は改善しますが完全治癒までは至りません。そして、残りの3分の1はどのような治療を行っても改善がみられません。どうしてこのような治療効果の違いが生じるのかはまだ分っていません。

 

 

加齢性難聴

加齢にともなって徐々に進行する難聴で、50歳を過ぎたあたりから多くみられるようになります。両耳で同時に発症し、高い音が聞き取りづらくなり、小さい音は聞こえにくく、大きな音はうるさく感じるようになります。

 

内耳の中で音を伝える役割を担う有毛細胞の毛が、加齢とともに減少することが原因です。根治的な治療はなく、補聴器を導入するなどの対応で聞こえを補う方法が用いられます。

 

 

ストレス性内耳障害・メニエール病

ストレスが原因で内耳に異常をきたす疾患です。具体的には内耳がむくむことにより、特に低い音が聞こえにくくなったり、耳鳴りやめまいを伴ったりします。

 

内耳にはもともと「リンパ液」という体液が入っていて、通常は一定の量に保たれています。それがストレスや寝不足、気圧の変化などによって自律神経が乱れると、リンパ液の量が増えてしまい、内耳がむくんだ状態になります。自覚症状として多いのが「水に潜った時みたいなボーッとした感じ」です。

 

同じような病態で、耳閉感、耳鳴、低音の難聴を伴うめまいを反復する場合、「メニエール病」と診断されます。

 

内耳の「むくみ」に関係する病気は、一度症状が回復しても繰り返すことがあるので注意が必要です。日頃から「ストレス」をため過ぎないように、適度な休息、気分転換をおすすめします。

 

稲垣耳鼻咽喉科医院