新型コロナウイルスの感染拡大が止まりません。しかしながら(決して望んでいた状況ではありませんが)これはある程度予測できていた事態のようにも思います。

今は拡大のペースを少しでも抑え、医療崩壊が起きないように全国民が協力しなければなりません。

そんな中、最近になって私が注目するトピックスが2つ出てきました。備忘録として簡単にまとめておきます。

①抗体検査への期待

現在感染者数公表の根拠となっているのはPCR検査の結果です。新型コロナウイルス感染の有無を検査すべきかどうかについては大きな議論があるところですが、個人的には疑い濃厚例や重症化の兆候が出た方に絞って行うという方向性で良いと思っています。(感染者との接触があった無症状の方や軽症の方は、まずは自宅待機などで様子を見ていただきたいです)いかに重症(またはその兆候のある方)を見逃さず、適切な医療が提供できる状態を維持できるかが重要です。

PCR検査については感染者を特定できるという大きなメリットがありますが、回復した方は陰性化します。感染が蔓延し始めた現在、もしかするとこれまで知らず知らずのうちに感染していた方が多く潜んでいる可能性もあります。そのような方がPCR検査を受けても結果は陰性です。ですがその方はウイルスに対する「抗体」を持っており、うつしたり、うつされたりする可能性は極めて低くなります。ではそのような方を見つけ出す方法はないのでしょうか。

新型コロナウイルスの「抗体検査」ができるキットが開発され、実際アメリカ・コロラド州の小さな町で住民に実施するという報告があります。抗体検査は1滴の血液で判定できるため、方法も簡便ですし、大量生産ができて普及すれば一般の診療所でも(もしかすると各家庭でも)検査が可能です。(PCR検査は特定の機関に限られ、コストも抗体検査キットより高額になると思います)抗体検査で「抗体あり」という結果が出た場合は、現在「感染している」、または「過去に感染していた」ことになります。

我々医療従事者は、いつ感染者と接触するかわからない環境の中で、不安を抱きつつ診療を続けています。私自身も既に感染しているかもしれません。(既に感染している前提で、他の方にうつさないように気をつけています)ですが抗体を持っていることが判明すれば、安心して働くことが出来ます。このことは一般の方も同じです。いきなり全国民を検査することは不可能なので、優先順位をつけて、例えば医療従事者、高齢者や妊婦さん、持病をお持ちの方、そして経済が停滞している今の状況を打破するため、休業を余儀なくされている事業者、労働者の方々を優先的に検査し、抗体を保持している方から経済活動をスタートさせられると良いなと思っています。(テレワーク可能な方は少しお待ちいただけるとありがたいです)

問題は、検査の結果「抗体なし」となった方への対応です。ワクチン開発には1年半程度かかるとの情報もあり、その方達の不安は消すことが出来ません。また一度罹患した方の抗体がどのくらいの期間維持されるかもまだわかっていないので、ワクチン開発は必要です。

統計的に人口の約7割が抗体を持つようになれば終息に向かうといわれており、特定地域をサンプルとして全員検査を行い、感染拡大の状況が確認できればもう少し早く終息できるかもしれません。感染の全体像を把握するためにも、今後抗体検査の重要性が更に高まると考えています。

②BCGワクチンが重症化を防ぐ?

新型コロナ肺炎の死亡率とBCGワクチン接種政策の関連性を指摘する論文が話題になっています(資料)。BCGは結核感染を予防するワクチンです。ワクチンが非特異的免疫効果を生み出し、他の病原体に対する反応を改善することがあることは、過去にも示されています。

論文のデータを見ると、ワクチン接種政策と死亡率に明らかな相関関係があるように見えます。しかし「相関関係」=「因果関係」にはならないので、慎重に考えなければなりません。日本はBCGワクチン接種国ですが、過信や油断は禁物であると、現段階では戒めるべきです。(でも心のどこかで期待している自分がいます)

稲垣耳鼻咽喉科医院